vol.103
June 30, 2026
南砺から、世界に一本のバットを。
「エスオースポーツ工業」がつなぐ、手仕事と野球。
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野球で使うバットは、ただの道具ではありません。手に持った感覚、振り抜きやすさ、重さや形。一本一本に、使う人のこだわりが詰まっています。富山県南砺市にある「有限会社エスオースポーツ工業」は、木製バットを作り続けるバット専門メーカーです。今回は代表の中塚陸歩(なかつか りくほ)さんに、バット作りの魅力や職人になったきっかけ、中高生へのメッセージを伺いました。
手削りの技術が残る、南砺のバット工房
――「エスオースポーツ」はどんな会社ですか?
中塚さん:富山県南砺市で木製バットを作っている会社です。創業は1981年で、プロ野球選手から学生まで、幅広い野球プレーヤーに向けてバット作りを続けてきました。自社ブランドのオーダーバットでは、材質や長さ、重さ、色などを選ぶことができ、一人ひとりに合った一本を形にしています。
――「エスオースポーツ」ならではの特徴はありますか?
中塚さん:一番の特徴は、手削りの技術を大切にしているところです。今は全自動の機械も使っていますが、木は一本一本状態が違うので、機械だけでは対応しきれないこともあります。節や割れがあったり、細かい調整が必要だったりするときは、職人が木を見ながら手で削って仕上げます。機械の正確さも取り入れながら、人の手で一本一本に向き合えるところが、うちの強みだと思います。
――バットを作るときに大切にしていることはありますか?
中塚さん:注文通りに作ることも大事ですが、それだけではないと思っています。お客さん自身も、自分に合う感覚をうまく言葉にできないことがあります。だから話を聞きながら、「本当はこういうバットを求めているんじゃないかな」と考える。ときには、他のメーカーさんの方が合うと思えば、正直に伝えることもあります。お客さんにとって一番いい選択をしてもらうことが、信頼につながると思っています。
ものづくりへの憧れから、富山の工房へ
――ものづくりに興味を持ったきっかけを教えてください。
中塚さん:小さい頃から、何かを作るのが好きでした。野球もやっていたので、拾ってきた木を使ってバットを作ったこともありましたね(笑)。高校生のときには、花火師のような職人の仕事に憧れていました。ただ、当時は進路としてうまく形にできず、その後は鉄道会社で車掌や駅員として4年ほど働いていました。
――そこから、なぜバット職人の道へ進んだのですか?
中塚さん:大きな組織で働く中で、自分の力で何かをやってみたいと思うようになりました。もともと職人になりたい気持ちもあり、バット作りについて調べる中で「バット作りなら富山」と知ったんです。そこで富山の工房へ連絡し、何度も足を運んで「ここで働きたい」という気持ちを伝えました。その結果、今の会社で働くことができました。
――職人として働く中で、印象に残っていることはありますか?
中塚さん:入社して1〜2年目の頃、2時間ほど接客したお客さんに「形が少し違ってもいいから、中塚君に削ってほしい」と言われたことがありました。まだ技術に自信があったわけではありませんが、話を聞いて向き合ったことが伝わったんだと思います。そこから名指しで来てくれるお客さんも増えました。その経験から、職人の仕事はものを作るだけではなく、人と向き合うことでもあると気づかされました。
リアルを見て、夢中になれるものを探す
――ものづくりや職人の仕事に興味がある中高生は、何を大切にするといいですか?
中塚さん:まずは、気になったことを実際に見に行くことだと思います。SNSではキラキラした部分が見えやすいですが、どんな仕事にも泥臭くて大変な部分があります。現場に行って、リアルな姿を見てみる。その上で「それでもやってみたい」と思えるかどうかが大事だと思います。
――今後、挑戦していきたいことを教えてください。
中塚さん:もっと地元の人に、富山でこんなバットが作られていることを知ってほしいです。バット業界で働く若い人は県外出身者も多く、地元の人が少ないんです。だからこそ、富山にあるものづくりの魅力をもっと発信していきたいですね。バット作りを通して、地域の産業としても盛り上げていけたらと思っています。
――最後に中高生へメッセージをお願いします!
中塚さん:やりたいことが決まっていなくても、焦らなくていいと思います。僕自身も、最初からバット職人を目指して一直線だったわけではありません。いろいろなことに興味を持っておくと、何かに出会ったときに動きやすくなります。自分が熱中できるものを、少しずつ見つけていってほしいですね。
エスオースポーツ
富山県南砺市で木製バットを作り続ける、1981年創業のバット専門メーカー「有限会社エスオースポーツ工業」。プロ野球選手から学生まで幅広いプレーヤーに向け、材質や長さ、重さ、色などを選べるオーダーバットを手がけている。機械の正確さを取り入れながらも、木の状態を見極める手削りの技術を大切に、一人ひとりに合った一本を形にし続けている。
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